105)5. ドラマメソッド(R): 2007年6月アーカイブ

◆ 本番前にやるべきこと
 1.十分にウオームアップをすること

 ドラマの発表会当日は本番前に十分体を動かして緊張感をときます。コミュニケーションというのは緊張しているとうまくいかないものです。屈伸運動を繰り返し体全体の緊張感をとっておくようにしてください。

また、発声練習をして自然に大きな声が出せるようにしておいてください。自分のせりふを怒鳴るように叫んでいる人がいますが、怒鳴るのではありません。自然に話す調子でかつ十分な音量で、聞き取りやすくはっきり話す練習をしなければなりません。

ウオームアップには最低15分くらいかけてください。

2.一度シュミレーションをしておく

理想的には本番前に通し練習をすることですが、難しい場合は自分のやるべきことを順番にイメージの中でシュミレーションしておきましょう。

せりふはもちろんですが、舞台の動き、スタッフのメンバーは音響や照明のタイミング、大道具の出し入れ、カーテンの開け閉めなどもイメージトレーニングしておきましょう。

3.準備、後片付けは迅速に

前のブループの発表が終わってから、準備の時間は10分しかありません。前のグループが終わったらすぐ舞台設置の準備にとりかかれるようにしてください。

準備の時間は自分たちのドラマの雰囲気をつくる音楽を流しておくと効果的です。自分たちの芝居が終わったら次のグループのために舞台をできるだけ速く片付けるのがマナーです。

◆ 本番中に気をつけること
 1.絶対に役から自分を抜かないこと

 本番中にせりふを忘れたり、間違えると役からぬけて素の自分にもどってしまう人がいますがこれは絶対にいけません。

ドラマは一種のイルージョンをつくりあげる作業ですから、役者の1人でも役から抜けてしまうとドラマ全体の台無しにしてしまいます。

間違えることはかまわないのです。間違える時も役に入ったままで間違えなければなりません。

2.他の役者の言っていることをよく聞くこと

本番は練習の時とは違って聴衆がいますから緊張します。緊張しないコツは他の役者のセリフをよく聞くことです。

人間は何かに集中しているときは他のことが気にならなくなります。聴衆が気にならなくなるには舞台上でおきていることに集中すればよいのです。

3.プロンプターをつける

どんなにすぐれた役者でもちょっとしたことでセリフを忘れてしまうことがあるものです。そのときのためにプロンプターを用意しておきましょう。

プロンプターは舞台上で役者がセリフを忘れてしまった時に舞台脇から次のせリフを教えてあげる人のことです。

セリフを忘れた時は本人はパニックになっていますから、小声でボソボソ言っても聞こえません。ある程度大きな声ではっきり本人にわかるように教えてあげましょう。

ドラマにおいて「行為の目的」をはっきりさせることが大切だということは9.ドラマメソッド(6):行為の目的 で説明しました。

The boy our daughter loves ではそれぞれの役の行為の目的は何でしょう。

Father と Mother に関しては Daughter にお見合いを承知させ、できれば自分の気に入った人と結婚してもらうことでしょう。

Daughter の目的は Father と Mother にお見合いをさせることをあきらめさせ、自分のボーイフレンドを紹介し、気に入ってもらうことだと思います。

この二つの「行為の目的」は相反するから、そこに葛藤(conflict)が生まれ、ドラマがエクサイティングになるわけです。 したがってそれぞれの「行為の目的」が強まれば強まるほど、ドラマはおもしろくなります。

 たとえば Father の紹介する男性が日ごろいろいろお世話になっている上司の息子で、Daughter のことを気に入っていたとすれば Father の説得にも力が入ります。

また Daughter の方も、ボーイフレンドとの間に子供ができてしまっていて、妊娠3ヶ月という状態であれば、両親を怒らせずに何とかボーイフレンドとの結婚を認めてもらうように真剣に考えるでしょう。

「行為の目的を達成することに必死になるような事情」を考えることによって、ドラマはよりおもしろく、エクサイティングなものになるのです。

ある程度 Talk & Listen で練習させたら、脚本を見ないで自分の英語で同じシーンを即興でやらせてみるのもおもしろいと思います。

ストーリーの流れは頭に入っているのですから、覚えている部分は脚本のセリフを使って、覚えていない部分は自分の言葉を使って即興でやらせてみます。

即興というとうと難しそうに思えますが、よく考えてみれば実際の会話はすべて即興です。相手が言ってきたことに対しその場で考えて即座に返すことができなければ会話はできないのです。

即興に慣れていくと、自分の英語でもなんとかコミュニケーションできるのだという自信がだんだんついてきます。

別に英語を間違ったってかまわないのです。脚本どおりの英語が使えなくたって、他の言い方ができれば十分です。

例えば Daughter: I don't like him. Father: Why? Daughter: Because he is not interesting. などのような会話の展開でも意味は十分通じます。大切なことは自分の英語で伝えたいメッセージを使えることができるようになることです。

前回Talk and Listenの基本形について説明しましたので、今回はその応用形について説明します。

1.hard of hearing

これは相手が話しかけてきたことを必ず聞き返して、2度言ってもらう練習です。hard of hearingというのは「英語で耳が遠い」ということを意味します。

例えば前回の例でFatherがDaughterにHow about this boy?と話しかけてきた時に、Daughterは必ずpardon?とかWhat did you say?とか言ってFatherに同じことを2度言ってもらうようにします。

 逆にDaughterが I don't like a man who works hard とFatherに話しかける時はFatherが聞き返し、Daughterが同じことを2度言います。

2度目に話すときは相手にはっきりわかるように自然に声も大きくなると思います。相手に伝えたいという気持ちが強まるからです。

この練習はキャッチボールにたとえれば、確実に相手にボールをなげる練習をするのに似ています。 また自分のセリフを脚本を見ないで何度も話しますからこの練習をしているうちに自然にセリフを覚えられるのも良いところです。

2.Repetition

これは相手が話しかけてきたことを主語を変えてくりかえす(repeat)する練習です。

例えばMotherがDaughterにI don't understand what you say. と話しかけると、DaughterはYou don't understnand what I say.と主語を変えてくりかえします。

くりかえす時はもちろん脚本を見てはいけません。相手の話している英語をよく聞いてくりかえします。

相手の言っていることがわからなけらば、くりかえして言えるまで何度でもゆっくり、短く区切って言ってもらいます。

この練習の良いところはくりかえすために相手のセリフを集中して聞きますから聞き取りの練習になるところです。また相手のセリフを完全に理解してから次の自分のセリフを話すのでコミュニケーションを確実にすることができます。

こればいわばキャッチボールにたとえれば確実にボールをキャッチするための練習です。

 Talk & Listenの基本形とこの2つの応用形を練習しているうちに生徒は脚本を見ないで何度も自分のセリフを話し、相手のセリフを聞きますから自然に脚本の英語を覚えてしまいます。そしてそれぞれの生徒に自分のセリフをバラバラに覚えさせるよりも、はるかに楽しく、自然に英語を覚えることができます。

Q. 突然で申し訳ありませんが,一つお願いがあるのです。 この4月から高校3年生の選択授業で「OCC」(Oral Communication C)という授業を担当することになりスピーチやドラマなどを手探りでやっているのですが失敗の連続です。そこで,色々参考になる書籍を探してみるのですが見つかりません。もし,何か良い本がありましたら教えていただけませんでしょうか。

A. 教え方については次の回に説明するとしてとりあえず使える教材を紹介します。 4,5人のグループで10分前後でできるドラマが載っている「台本集」をお探しのようなので私が使ったことのあるものをあげておきます。

横浜国立大学の「英語授業にドラマ的手法を」(大修館書店)という本をご存知でしょうか? この本には佐野先生が書かれた、文法事項を練習するための3、4人のスキットがたくさんのっています。

どの話もユーモアあふれた楽しいものですし、それぞれのスキットである特定の文法事項を練習できるようになっていてとてもよくできています。 このスキットを毎回練習していけば生徒は文法事項を知識としてでなく実際の状況の中で使えるようになります。

次の例は関係代名詞 who, which, what を練習するための The boy our daughter loves というスキットの出だしの部分です。

Characters : Father, Daughter, Mother , Man (居間で父親と母親が娘に見合い写真を見せながら説得している)

Father:How about this boy? He is a young man who works in my office. He is a hard worker.

Daughter:I don't like a man who works hard

Mother:I don't understand what you say. A man who works hard is a good worker. A man who doesn't earn money can't make you happy.

Daughter:Well, anyway, I don't like men who are not interesting. My husband must have a hobby which I can enjoy with him. I want marry a man who is handsome and can dance well.

Father:Then, how about this man? He is the man who got the first prize in a dancing competition last year. I saw the trophy which he got then.

Daughter:Can he speak English well?

Father:No, he can't. English isn't what he is good at. But he is handsome and can dance very well.

Daughter:Father, he isn't for me. I don't want to marry a dancer. I want to marry a man who is intelligent and can speak good English. What a man thinks is more important than what he does for living.

Mother:What you said is very true. I know a man who is very intelligent and can speak good English. What a man thinks is more important than what he does.

この後母親が別のintelligentな男を紹介し、娘が拒否した後、娘がハンサムでもなく背も低く、脚も短い自分の恋人を紹介して終わります。 関係代名詞が何度も自然に使われているのがおわかりいただけると思います。

次回はこのスキットをどう練習していくかについて説明します。

以前「脚本のセリフでは感情がおこりにくい」のところで「脚本のセリフを使って即興劇のような本当のコミュニケーションをする」技術があると紹介しましたが、その方法を紹介します。

この方法はアメリカのプロの俳優たちが脚本の読み合わせをするときに使う方法で、ドラマメソッド(R)を開発されたリチャード・バイア先生はこの方法を Talk and Listen と呼んでいます。

日本の演劇では役者はまず自分のセリフを暗記してから、演技の練習をするのが普通です。しかしこの方法でやると、自分のセリフを特定の言い方で覚えることになり、即興劇のような本当のコミュニケーションがおこらなくなり、リアリティがでません。セリフの言い方というのは相手の話し方によって自然に変わらなければならないのです。

そこでアメリカのアクティングメソッドでは、セリフをコミュニケーションの中で覚えていくようにします。これが Talk and Listen です。

ここでは前回紹介した佐野先生のスキットを使って説明します。

まずFather役の生徒は脚本を見て、自分のセリフを区切りのいいところまで覚えます。(長い文の場合は短く区切って覚えられるところまで覚えます。)そして話す相手の目を見て、話かけます。 この場合話相手はDaughterですから娘の目をみながら、"How about this man?"と話しかけます。

Daughterは脚本を見ないでFatherの言うことを聞いて、理解します。Fatherが何を言うかということも大切ですが、どのように言うかとも言うことも大切なので、聞くときは相手の感情までよく聞くようにします。

Motherは脚本を見ないでFatherとDaughterの二人の会話を聞いて理解しようとします。

続けてFatherはHe is a young manまで覚えて、Daughterの目を見て話しかけDaughterは聞いて理解します。DaughterはFatherの言っていることが聴き取れなければ、Pardon?と聞き返します。相手の言っているセリフがわからない時は脚本を見てはいけません。あくまでも相手の話している英語を聞いて理解しなけらばならないのです。

FatherはDaughterが理解していると感じたらwho works in my office.と続けて話しかけます。

次はDaughterがFatherの目を見ながら、I don't like a manと話しかけ、相手が理解したらwho works hard.と続けます。

こうして脚本を少しづつ覚えながら、相手の目を見て話かけ、聞き手は相手の言っていることを理解してから、次の自分のセリフを言うようにします。

次のセリフの言い方は自分の前の相手のセリフを相手がどのような感情を持って言ったかに影響されます。 Talk and Listenはいわばキャッチボールのようなものです。セリフはボールです。セリフというボールに自分の感情をのせて相手に投げます。ボールにのせられた感情は相手に影響を与えます。相手はボールによってひきおこされた感情を自分のセリフというボールにのせて相手に投げ返すのです。

 ボールは必ず相手に投げなければなりません。相手の目を見て話すのはそのためです。そして相手の投げてきたボールは確実に受けとらなければなりません。うまく受けとれなければ(聞き取れなければ)Pardon?と聞き返してもう一度相手にボールを投げてもらいます。

アクティングの本質はコミュニケーションです。それぞれの役者が覚えたセリフを自分のイメージした言い方で話しているだけではそこにコミュニケーションが発生しません。

自分のセリフを言った後、他の役者のセリフを聞かず自分の次のセリフを思い出そうとする人がいますが、とんでもありません。

自分のセリフを言うことと同じくらいまたはもっと大切なことは、相手のセリフを聞くことです。相手のセリフを聞かなければ、次の自分のセリフをどう言っていいかわかりません。「全身を耳にして相手のセリフを聞き取ろうとすること」これなしには良い演技はできません。

前回、感情はコミュニケーションによって起きるというお話しをしました。簡単そうですがこれが意外に難しいのです。なぜなら脚本の役を演じる場合はセリフが決まってしまっているのでコミュニケーションが新鮮なものになりにくいからです。

脚本のセリフを言う時と比べると即興劇の場合ははるかに感情は起きやすくなります。相手が何を言うかわからないのですから、相手の言った内容や話し方によって私達はいろいろな感情を持ちます。自分でも好きなことが言えますから言葉に自然に感情が入ります。それが相手に次の感情を引き起こします。

しかし脚本を使う場合は相手の言うことは初めからわかっています。知っているものを聞いても、意外性がとぼしいですから感情がおきにくいのです。

また自分のセリフも決まってしまっているので感情が入りません。そこには本当のコミュニケーションが成立しずらいのです。

私のやった演技法は最初はずっと即興ばかりでした。即興の中で自由自在に感情が感じられるようになって初めて脚本を使って練習します。そして脚本を使う時は特別なやり方を使います。そしてこのやり方こそが「脚本のセリフを使って即興劇のような本当のコミュニケーションをする」技術なわけです。

「感情はこめてはいけない」と言いました。そうした感情は本物の感情ではないからです。では本当の感情はいったいどこから来るのでしょうか。

俳優というのはドラマの中で喜怒哀楽の感情を自由自在に感じ、これを観客に見てもらうことが商売ですから、「感情はどこから来るのか」というメカニズムを知ることはとても大切なことです。メカニズムがわかれば、そこに技術が生まれます。こうした「感情をひきおこす技術」が演技法(アクティング)です。

演技法にはいろいろなものがありますが、ここではその中で最も基本となるものについてだけ説明したいと思います。

まず感情が起きるメカニズムですが「感情はコミュニケーションによってひきおこされる」ということを利用します。普段私達はいろいろな会話をしますが、その中でいろいろな感情を自然に感じます。気のあった友達と話がもりあがれば楽しくなります。自分より立場が低い人にバカにされれば腹が立ちます。自分の大好きな人に嫌われれば悲しくなります。これと同じことをドラマという想像上の世界におこせばよいわけです。

よく演技の練習や、英会話の練習で「もっと感情をこめて話しなさい」という指導をする方がいますが、リアリティを持った演技や会話ができるようになる為にはこれは間違っています。

本当の感情は「こめる」ものではありません。「感情は自然に入る」または「自然にやってくるもの」です。 「ここは悲しい場面なんだから、もっと悲しそうに話して」とか「もっと怒って大きな声を出して」という指導をしてできることは、所詮「悲しそうに話す」とか「怒ったふりをする」ということにすぎず「本当に悲しくなる」こととか、「本当に怒りを感じること」とは全く違います。

 本当の悲しさや怒りなどというのは、たとえセリフなどなくてもその人が舞台にいるだけでひしひしと伝わってくるものです。

ドラマメソッド(R)が目指しているのは「いろいろな感情を感じているふりをすること」ではなく「本当の感情を感じること」です。ドラマは誰かの真似をしたり、ふりをしたりすることでなく、役の立場で想像上の状況で生き、本当にいろいろな感情を感じることなのです。

リアリティのあるアクティングをする為に「役作り」と同じくらい大切なのが、自分が演ずる役がやろうとしている「行為の目的」を明確にすることです。この「行為の目的」は英語ではpurpose, objective, intention, goalなどといろいろな名称で呼ばれますが、要するにドラマの状況の中で「自分は何をしようとしているのか?」ということです。

私達は脚本を読む時に、自分の演ずる役の個々のセリフや、動きにとらわれがちです。しかしセリフや動きをバラバラに考えるのではなく「そうした行為を全体として見ると、いったい自分は何をしようとしているのか」ということを考えることこそ重要なのです。そしてアクトする時はとにかく「自分の目的を実現しよう」とすることを考えて演じれば、個々のセリフや動きは自然に明確な意味を持ってきます。

英会話の学習についても、英語の個々の表現を覚えることも大切ですが、同時に「そうした表現を組み合わせて何を実現しようとしているか」という言葉の裏側にある機能(Function)を考えることも大切です。 「相手をおだてて何かをやってもらう」「相手の注意をそらして自分の間違いをごまかす」などの「行為の目的」によって自然にどんな言葉をどんな調子でどんな身振りや目つきで話すのかが決まってくるのです。

Q. 大変興味ぶかく読ませていただきました。ドラマメソッドは、たしかに説得力がありますね。たとえば、英語と日本語の違いはありますが、幼いころの学芸会を思い起こしまして、よく理解できました。ああいうことを通して、どんどん日本語の表現力を身につけてきたのですね、意識しなかったですが・・・。

ところで、素人考えなんですが、ロール・プレイや状況設定をして、表現力を学ぶのはいいとしても、それはある意味で「皮相的」なものを身につけることになるのではないでしょうか。

僕がやったやり方は、現在・過去・未来の自分を確実に表現できるようにするというものです。あらゆる自分自身のこと、家族、教育環境、社会観、将来の目標などを英語で表現できるようになり、自分をまず「確立」するというやり方です。

どうも日本人は客観的に自身を語ることが苦手で、英語圏の人はそれを自然にやれる人たちだと思います(たとえば、最近のMy name is Joeという映画の主人公のように。(笑))。ですから、ドラマメソッドと並行して、表現者自身の中味を固めることが肝要ではないか、とそんな風に思うのですが。

 

A. 御質問にある「現在・過去・未来の自分を確実に表現できるようにする。あらゆる自分自身のこと、家族、教育環境、社会観、将来の目標などを英語で表現できるようになる」ということこそドラマメソッド(R)で使う「役作り」の方法です。ドラマではこれらのことを自分が演ずる役について細かく考えていきます。

私達は「自己」とは自分の今までの育ってきた環境が決定し、変えられないものだと考えがちです。しかし、本当は私達は1つの役を演じているだけなのではないかと思うのです。 例えば、私は中流の日本の家庭に育ち、日本の学校教育を受け、アメリカの大学院で勉強し、現在英語の講師をしている二児の父親という背景を持ちます。しかしこれは実は1つの役であり、私の一面でしかないのではないかとい思うのです。 もしも私が全然違った環境で育ってきたら、そこには違う人生があり、私のまた違った一面が出ていたのではないか考えられるのです。

例えばドラマの中では私達は中世の貴族や、戦争の捕虜や、法廷で闘う弁護士を演ずることもできます。現実の世界の自分とは全く違った人生を生きることができるのです。違った役を演じることによって、世界を違った見方で見れるようになります。そして設定された状況の中で自分がいろいろな反応をすることから自分の新しい面に気づくことができるのです。

ドラマのおもしろさは、こうした「時間や場所を超えた、想像の世界の中に生きる」ことで、今まで表面に出てこなかった「新しい自己」を発見することができるところです。 もちろん、これができるためには自分の役についての相当深い理解が要求されます。ロールプレイや演技を皮相的なものにしないためにも、状況の細かな設定や役の背景を深く掘り下げていくことが必要なわけです。

英会話の授業の中では、自分の役がどんな役なのかを大体理解しておけばいいのですが、英語劇をやるとなると、自分の役に対する深い理解が必要になってきます。

この役を理解し、その役に入っていくことを「役作り」といいます。 私はドラマのクラスでは、生徒に演じる役について、いろいろな質問をします。どんな家庭に育ったのか?好きなもの、嫌いなもの、将来の夢、どんなクセがあるかなど、質問の項目は30を超えます。

質問は2人称でし、生徒は一人称で答えます。役の性格を「私」という言葉を主語にして答えることによって、生徒はだんだん役の中に入っていくわけです。 役についての情報は脚本の中に書かれていることもありますが、ないこともあります。その場合は生徒は足りない部分を自分で考えて答えることになります。 こうした活動はもちろんすべて英語です。

ドラマを「セリフを覚えて言う」ことだけだと思っている方がいますが、ドラマメソッド(R)の本来の特徴はドラマを作っていく過程のさまざまな活動を英語でさせることによってコミュニケーション能力を高めることにあるのです。

ドラマのもう1つの特徴はもしも「自分がドラマの中の登場人物だったら」と自分以外の人物の立場に立ってみることによって、普段できない経験、ものの見方ができることです。

私がニューヨーク大学で学んだDrama in Education や Theater in Education はこの「想像上の世界で,自分以外の人の立場でいろいろなことを経験することにより、世界を体験的に理解すること」を利用したものです。

私が見せてもらった、イギリスの演劇教育のクラスでは歴史をドラマを通して教えていました。イギリスでペストが大流行した時のことを手紙や文献で再現し、自分の家族や友人が理由もわからずに死んでいく様子を生徒にドラマを使って経験させていくというユニークな授業でした。 これは歴史の事実をただ教科書で知識として覚えるのとは違った、体験的、感情的に歴史を理解させようという試みであり、詰め込み教育の日本ではまだ教えられていない方法だと思います。

ドラマとは「人の真似をすることだ」と勘違いしている人がいますが、それは違います。ドラマは「もしも自分が~だったら」という想像上の状況で生きることなのです。ロシアの有名な演技の指導者スタニスラフスキーはこの「もしも」のことを"Magic If"と呼んでいます。

状況を決める要素である、場所、時、登場人物、目的のそれぞれについてもう少し考えてみたいと思います。

まず場所です。私達は普段、場所によって話し方をいろいろ変えています。たとえば回りの人が静かに勉強している自習室で、隣の友達に話しかけるとしたらどんな話し方になりますか?小声で話しますよね。 校庭のグラウンドの向こう側でチャッチボールをしている友達に話しかけるとしたら今度は自然に声が大きくなりますね.

時に関しては、朝なのか、昼間なのか、夜なのかということ、また春、夏、秋、冬のどの季節なのかということも影響します。真夏の冷房がきかない蒸し風呂のような部屋で話しているのと、真冬にバス停で話しているのではやはり違います。

さらにDramaがTheaterになって、人に見せるものになると、状況を観客にもわかってもらわなければなりません。 私達は普段何気なく見ている、映画やTVドラマ、演劇などでも状況がきちんと観客にわかるようないろいろな工夫がしてあるのです。「どうしたら状況をわかってもらえるか」を考えるのもドラマ作りのおもしろいところです。

まず会話における状況の大切さについてお話します。会話には必ずSituation(またはGiven circumstances) があります。具体的にはWho?(誰が)、Where?(どこで),When?(いつ)What?(何をしようといているのか)ということですが、この設定によって話し方が全く変わってくるのです。

アクティングの基礎はまず状況を把握することから始まります。アクターがまずやらなければならないことは、脚本を読み込んで状況を正確に把握することです。状況がわからなければどう演技していいかわからないからです。

次にあげるのは奈良橋陽子先生の書かれた Pinch&Ouch というテキストに出てくるスキットです。同じ会話が状況によっていかに違った意味をもつようになるかがよくわかるので例にあげてみました。

A: Hi, How are you doing?
B: I'm doing all right.
A: What've you been up to lately?
B: Nothing much, I've been going to a lot of films.
A: Good?
B: Some good, some bad.
A: Hm  

これだけではなんのおもしろみのないスキットですが、これに状況をつけます。

<状況1>
Who? Aは男子大学生、Bは女子大学生。彼らは高校時代同じサークルに属していた。
Where? 新宿の繁華街
When? 日曜の午後3時
What? AはBに好意を持っていてできればお茶にさそいたい。BもAに自分が何をしてきたか話したい。  

<状況2>
Who? Aは30代の独身男性社員、Bは20代前半の女子社員 AはBが好きでいつもストーカのように追い回している。BはAが嫌いだが、上司なので困っている。
Where? 会社の社員食堂
When? 昼休み 
What? Aは仕事が終わったらBと飲みにいこうとさそいたい。BはAとの会話をやめて食堂を出て生きたい。

<状況3>
Who? Aは娘に厳しい父親。BはAの娘(18歳)で父親のことを恐れている。
Where? Bの部屋
When? 夜10時
What? Aは妻からBが最近10歳以上も年上の男性とつきあっていて帰宅が遅いことを聞き、男と別れるように言いたい。BはAとの会話を避けたい。

おわかりのように,会話は同じなのにもかかわらず状況を変えただけで声の調子からbody Languageまですべてが変わってしまうのです。これがドラマメソッド(R)の醍醐味です。さらに生徒自身に状況を考えさせるともっといろいろなものがでてきます。

英語の会話ができるようになる為には英語劇(ドラマ)がとても役にたちます。ドラマは会話からなりたっているからです。

そしてアクター達が演技の上達のために練習している方法や、イギリスを中心に行われているドラマ教育の手法を英語教育にとりいれたものがドラマメソッド(R)です。 そこでみなさんにドラマのおもしろさ、有効性をわかっていただくためにドラマメソッド(R)について説明させていただこうと思います。 (ドラマメソッドはモデルランゲージスタジオの登録商標です)

ここで説明することは元ハワイ大学イーストウエストセンター教授のリチャード・バイヤ氏と奈良橋陽子先生を中心にモデルランゲージスタジオ(MLS)で開発され教えられているものと、私がニューヨーク大学院、演劇教育科で学んだことの両方が入っています。

ドラマメソッド(R)には英会話のクラスで使うものと、劇を作っていく過程で使うものがあります。それぞれについて述べてみたいと思います。

英語劇制作のクラスの内容に入る前に、ドラマが語学学習に役に立つ理由について簡単に説明したいと思います。

私が学んだ演技法はアメリカではメソッド演技と呼ばれているものですが、ここではアクティングを「想像上の状況でのコミュニケーション」と考えています。つまり、俳優は想像上の状況の中でいかに相手とうまくコミュニケーションできるかの訓練を受けているのです。

語学学習者の究極の目的もコミュニケーションができるようになることですから、俳優のそれと同じです。だから語学学習にアクティングの様々なテクニックを応用することができるわけです。

ではコミュニケーションとは何なのでしょうか?簡単なモデルで説明したいと思います。ここにAさんとBさんの二人がいます。この二人がコミュニケーションすると、二人の間で何かが交換されます。何が交換されるでしょうか?  

いろいろな答えが考えられると思いますが、基本的には2つの要素に分類されます。 一つは「情報」という要素です。意見のこともあるし、客観的な事実のこともありますが情報を伝えるということに関しては同じです。私達がニュースを聞いたり、講義を聞くときの目的は主としてこの情報を得る為です。

もう一つの要素は「感情」です。生徒さんに聞くと、この答えがなかなか出てこないことが多いのですが、コミュニケーションには「感情を伝える」という要素もあります。私達が映画や演劇を見にいくのは主として、感情をストーリーの中の登場人物と共感する為です。

私は今までの語学教育にはこの感情を伝えるという要素が欠落しているのではないかと思います。たとえ単語をたくさん覚え、文法的にも正しい文を作れるようになってもそこに生きた感情が入ってこないと、本当の言葉とはいえないのではないでしょうか。ドラマを語学教育に使う良いところの一つはこうした言葉の感情面を自然に学ぶことができる点だと思います。

ドラマを英語教育に応用するもう1つの良い点は、コミュニケーションの非言語要素にも、注意を払えるという点です。 例えばジェスチャー、アイコンタクト(視線の合わせ方)、顔の表情などはとても重要です。 他にも、相手との距離、身体的接触、着ているものや髪型、アクセサリーやメイクアップなどもコミュニケーションに大きな影響を与えます。 こうした非言語要素は実際にコミュニケーションする時は言語と同じか、それ以上に重要な役割を果たすのにまだまだ、語学教育の中で忘れらている分野だと思います。

さて英語が使えるようになる為にはアウトプットが必要だということを述べ、その方法として英語を使う必要性を作っていく、コミュニカティブアプローチを紹介しました。

確かに、インフォメーションギャップやゲームなどを導入することにより、ある程度英語を使わせることは可能ですが、英語の必要性を人工的に作った感じがするのは避けられません。そこで私達の学校では生徒が本当の意味で自然に英語を使わなくてはならないようにする為にプロジェクトワークという英語のグループ活動を導入しています。 これは生徒をブループに分け、グループごとにプロジェクトを企画、準備、発表させ、その過程で英語を使わせようというものです。

現在,私達の学校では英語劇を作る「英語劇制作」と、与えられた命題についてのディベートを試合形式で行うロジカルプレゼンテーションと自分達で選んだトピックについて賛否両論からいろいろな役に入って問題を考えるドラマティックディベートの3つのプレゼンテーションが行われています。

以前お話したように私達の学校では校内日本語禁止で、英語しか使えないのですが、せっかくの英語の環境も友達との雑談くらいでは十分機能を発揮できません。日々の日常会話だけではなかなか複雑なことを話すことがないからです。

しかし、このプロジェクトワークを課すとその過程の様々な作業を通して、生徒はいろいろなことを英語で話し合い、考え、決定していかなければなりません。その結果、英語を使う量、質とも大幅に増大させることができるのです。 この章ここでは私の専門でもある、ドラマ教育を応用した英語劇制作のクラスについてどんなことをしているのかをご紹介したいと思います。

ロジカルプレゼンテーションとドラマティックディベートについてはディベートと理論の章をご覧ください。

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