108)8.「語核」と英語学習: 2007年6月アーカイブ

さらに、日本語の場合は内容語を表記する、漢字が表意文字だということが、理解を助けます。漢字は世界でもまれな、文字自体が意味をもつ表意文字(ideogram)なのです。

世界の言語のほとんどは、表音文字を使っています。アルファベットにしても「ひらがな」にしてもハングル文字にしても、それは単なる発音を意味する文字にすぎません。

これに対し、漢字はそれぞれが意味を持っていますから、その文字を見ただけでその意味することが大体わかるのです。魚へんがついた文字は、魚の名前なんだろうということは想像できますし、日本語で多用される、漢字2字の言葉は組み合わされた2つの漢字から大体その意味することはわかるのです。

こうした理由で、読むということに関しては、内容語が漢字で強調され、かつその漢字が表意文字である日本語は、音声だけにたよって内容語やその意味を把握していかなければならない英語よりもずっと理解がしやすいのではないかと思うのです。

英語は内容語が機能語よりも強調されて話される言語だということはお話しましたが、逆に表記に関しては日本語の方が英語よりもはるかに内容語を強調する言語だということにお気づきでしょうか?

その原因となっているのが漢字の存在です。日本語の場合、内容語の部分はだいたい漢字で表記されていますから、日本語を読む時は漢字だけ読んでいけば、文の意味はだいたいわかります。

日本語の文を見ると、漢字の部分がパッと浮き出て目に飛び込んできます。私達は日本語を速読する時は無意識のうちに漢字だけを目にとめて読んでいるのです。

これに対し、英語は内容語も機能語も同じように表記されますから、一見しただけではどこが内容語で、どこが機能語か区別つきません。全体として、ベタッと書かれているという印象です。

どこが強調される内容語の部分かということは、実際に自分の中で音声にしてみて初めてわかるのです。

会話をスムーズに運ぶためには「幕間つなぎみたいな役割をするフレーズ」はとても大切です。

次に言うことを考える為に黙ってしまうと、相手は沈黙に耐えられなくなって話し始めてしまいます。これを防ぐには「まだ私の番ですよ、すぐ話しますから、ちょっと待っていて下さい」ということを相手に示さなくてはなりません。

その為に使われるのが次のような「自分が話す番をキープする為の言葉」です。日本語の「えーと」にあたるものですね。

"Uh..." 
"Well..." 
"I think..." 
"I'm not sure..." 
"Let me see..." 
"Let me think..."  
"Just a second"
"Um, how can I say this..."  
"Ah, yes, now..."
"Well, actually..."  
"That's a very interesting question..."
"You see..." 
"How shall I put it?..." 
"Well, as far as I can see,,,"  
"It's like this..." 

これらの言葉は会話をスムーズに運ぶ為の潤滑油のような役割を果たします。 他に、相手が質問してきた場合は相手の質問をそのまま上がり調子で繰り返す手もあります。

相手の言っていることがわからない時に使うものとして「わからない単語を上がり調子で言う方法」の他にfocused repetitionという方法があります。これは相手の言っていることがその部分だけわからない時に、わからない部分のみを聞く手法です。

これはThe Culture Puzzle(Prentice Hall Regents社)というテキスト中に出てくる例です

Head Waiter: That table needs another butter knife.
Bus Boy: Another...?
Head Waiter: Another butter knife.

これは、わからい部分を空白にして、その前の単語を上がり調子にして、わからない部分を言わせようという手法です。

Head Waiter: Take anoher butter knife to that table.
Bus Boy: Another what?
Head Waiter: Another butter knife.

これは、わからい部分にwhat, where, when, whoなどの疑問詞を直接挿入して、その部分を聞く手法です。

私はアメリカ人との会話においては、自分が相手に言っていることをどのように理解しているかを伝えるフィードバックがとても大切だと思うんです。

これは社会言語学の授業で習ったことなのですが、アメリカ人というのは会話の中の沈黙に耐えられないらしいんですね。会話の中で自分が話し終わって、誰も話し始めないで沈黙が続くと、とてもuncomfortableに感じて、沈黙を埋めるためにまた自分が話し始めることが多いんです。

日本人の場合、英語がわからない上に、会話というのは相手が話し終わるのを待ってから話すのがマナーだと思っていますから、相手が話し終わるのをジッと待っていることが多いのです。

フィードバックがないですから、アメリカ人は「理解してもらっているか」不安に思いながらも一方的にワーと話すことになります。

日本人の方はそのうちアメリカ人の言っていることがわけわからなくなってきて、相手が話し終わっても何も言えず、沈黙が始まります。するとアメリカ人は沈黙に耐えられずにまた早口で話し始めるというパターンになってしまうのです。

こうしたことを防ぐ為に、とにかく相手が話している間に何らかのフィードバックを返して、会話をコントロールしなければなりません。

相手の言っていることがわかっている時に、uh-huhとかI see.とかYou did!とかあいづちを入れていくことも大切ですが、もっと大切なのは、相手が言っていることがわからない時に、相手に返すフィードバックです。

私の紹介した「相手の言っていることを上がり調子で言うフィードバック」は簡単で効果的なものですから、英語力があまりない方でも十分に使えます。

日本人は相手が話しているのを妨げて、こちらが割り込んで質問するのは失礼だと、どうしても感じてしまうのですが、そんなことはありません。フィードバックがあったほうがアメリカ人も安心するし、自分の話している内容に興味を持っていると感じるものです。

聞き取りに関しては内容語、特に語核の部分に注目して聞けば、相手の言いたい内容はかなりの部分は想像できます。相手の言ったことをすべて聞き取れなくてもコミュニケーションはそれなりに成立するのです。

語核を使って会話をコントロールして、相手の言っていることを理解する良い方法をご紹介しましょう。これは相手の言っていることが20%くらいしかわからない時に特に有効です。

まず相手の話している英語に100%集中して、相手が話している言葉の中で強く発音されている言葉(つまり語核の部分)を聞き取ろうとします。

そして強く発音されている言葉の中でわからない単語があった場合はこれを相手のすぐあとに繰り返して言ってみます。相手の言った通り言えなくても聞き取れた最初の部分だけでもかまいません。 この時に上がり調子のイントネーションで言うのがコツです。「あなたの言ったこの単語はどういう意味ですか?」くらいの気持ちです。

すると相手は「ああ、この人はこの単語がわからなのだな」と察知して、その単語をゆっくり言いなおしてくれたり、他のやさしい言葉で言い換えてくれます。

この方法によって、会話の大切な部分(語核の部分)を相手に説明させて、確認しながら会話をすすめていけば、相手を自分のペースに引き込むことができます。

会話の聞き取りで最大の問題は、「相手の言っている内容がわからない時どうするか」だと思います。わからないまま黙って聞いていると、話題はどんどん進み、ますますわからなくなります。全くわからなくなる前にある程度会話をコントロールして相手に自分がわかるように話させるようにしむけなくてはなりません。

I beg your pardon?と聞き返すのも1つの手ですが、これでは相手はどの部分がわからなかったがを知ることができないのが難点です。

その点、この「わからなかった言葉をくりかえす」方法は、相手にどの部分を説明してもらいたいのかがすぐわかるのでとても便利です。

そして、相手にも「この人は自分の話していることを、一生懸命に聞き取ろうとしてくれている」という良い印象も与えることができます。

ニュースや映画の英語を聞き取るのは、相手が機械ですから、「ちょっと待って」とか「そこのところを説明して」とか言えないのですが、会話の場合は自分で会話をコントロールして相手に自分に合わせて話してもらうことも十分可能です。

聞き取れない自分が悪いと卑下するのではなく、会話は相手と自分の協力で成り立っていくものだと考えてください。

英語は「強く、はっきり話される部分」と「弱く、速く話される部分」があることは述べました。

そしてこの「弱く、速く話させる部分」には音が連結したり、脱落したりして、個々の単語を発音する時とは違った音で発音されることが多いのです。

この音の連結、脱落(Reduction)の典型的なパターンに慣れておくと、聴き取りが楽になるし、話す時もより自然な調子で話せるようになります。

次の例は LISTENING IN THE REAL WORLD(Rost & Stratton著.LINGUAL HOUSE社)という本に出てくる英語の Reduction の例です。上の文は下の文のように発音されます。

I'll call her again tonight.
I'll call 'er again tonight.

I'm going to leave now. I
'm ghh-nah leave now.

Was he with you last night?
Wah-ze with you last night?

It doesn't cost much.
It duhz-n cost much.

Did she call you last night?
Che call you last night?

Have you ever been to Arizona?
V-yuh ever been to Arizona?

Could he go with you?
Cu-de go with you?

ネイティブスピーカーの英語がノンネイティブの英語より聞き取りにくいことがありますが、その理由の1つはネイティブの英語は音が連結したり、弱化したりして単語の時とは違った音で発音されがちなのに対し、ノンネイティブの英語はこの傾向が少なく、それぞれの単語の発音通り、はっきり発音されるからです。

 この点を漢字にたとえるなら、ノンネイティブの英語は漢字でいえば、楷書にあたり、ネイティブの英語は行書や草書にあたると考えていただければ良いと思います。

英会話教材の英語は楷書や行書のことが多く、ニュースの英語は行書程度、映画の英語は草書くらいにあたります。ここで紹介した英語は行書程度の英語です。  

「語核」のところで、英語には「強く、ゆっくり発音される部分」と「弱く、速く発音される部分とがある」と説明しましたが、この2つ部分のメリハリをつけて話すと英語らしい調子で話すことができます。

そして英語は、「強く発音されている部分(stressed syllable)が同じペースで来て、弱く発音される部分はその間にまるで付けたしのようにして発音される」という傾向があるので、次のような練習をすると英語らしい調子で話せるようになります。

次にあげる例はPinch & Ouch(野村陽子著)の中にある練習です。

 [Tell] her to [call] me. Could you [tell] her to [call] me. I'd [like] you to [tell] her to [call] me.

 [ ]の中の単語が強く発音される音節です。

まず最初に[ ]の中の単語だけを手でリズムをとりながら、手を叩いたときにそれぞれの単語を発音するように練習します。

次に弱く発音される部分を、手を叩く間の時間に速く付けたしのように入れて全文を読んでいくのです。この方法で練習すると、日本人特有の、すべての単語が同じ調子で読まれる平板な調子がだんだん取れていきます。

この原理を応用した教材としてグラハムのJazz Chantsがあります。

英語を話す時も語核(自分が最も言いたい単語)を強調すると、自分が言いたいことが相手にずっと伝わりやすくなります。

全体として日本人の話す英語はどの単語も同じような強さで話す日本語のクセが抜けず、強弱のない平板な英語になりがちです。日本人が何を考えているのかわからないと評判が悪い原因の1つはこの抑揚のない平板な話し方にあると思います。

以前、ドラマのところでお話したように、言語には情報を伝えようとする機能の他に、感情を伝えるという機能があります。そして感情は話す英語の語核を強調することによって、自然に入れることができるのです。

ドラマを英語教育に使うと良いところは、同じ英語の文であっても使われる状況によっていろいろな言い方ができることを教えられるところです。

次にあげる例は「英語を実用的に使う本」(森 喬伸 著)に書かれているものですが、どの語を語核にし、強調するかによって同じ文がいろいろなニュアンスの違いを持ってくることがよくわかります。

 「英語を実用的に使う本」ワニ文庫 森 喬伸著 P41~P42より

I am going. についていえば、次の4つの意味の違いが,声の上げ下げと強弱でいいあらわすことができる。(〔 〕の中の単語が強調される単語です。)

(1)I am going.とふつうの読み方をすると「私はいきます」という気持ちを一般的にあらわす。ところが

(2)I am 〔GOING〕.とGOINGの部分で声を上げると同時に強く発音すると、「いくぞ!」という感じになる。どこかに一緒にでかけようと、亭主が待っているのに奥さんが長化粧。「なにをぐずぐずしてんだ」ということばが、のどまででかかっているときのセリフである。

(3)I 〔AM〕 going. と大文字のところを強く発音してみるとわかるが、どぎつく、ヒステリックに聞こえるはずだ。亭主にせかされた奥さんが「いくったら、いきますよ」と返事している状況である。さらに

(4)〔I〕am going. と「I」の部分を強めていえば、これは「誰か行ってくれますか」という質問に対して、「私がいきます」とみずから名乗りでるときの気持ちをあらわしている。

「語核」を分析する上で有効でと思われる言語学的概念として、内容語と機能語があります。

内容語とはfather, good, run, oftenなどのように事物の名称,性質、動作、状況などを表現する語のことをさし、名詞、形容詞、動詞、副詞などにあたります。

これに対し、機能語とはon, to, and, the, canなど主として文中における文法構造上の関係を表すために働く語であり、前置詞、接続詞、冠詞、助動詞などに当たります。

「語核」にあたる語というのは、たまに機能語のこともありますが、内容語のことがほとんどです。そして日本語と英語では内容語と機能語の話され方に差があるのです。

日本語の場合は内容語も機能語もそれほど区別せずに、同じような強さ、速度で話されます。しかし、英語の場合は内容語の方は強く、はっきり発音するのに、機能語は弱く、速く発音される習性があるのです。

内容語のうち、その状況で特に話者が強調したい内容を持つ単語(すなわち「語核」)は他の単語よりもさらに誇張されて強く、長く発音されます。

この英語の習性がわかると、英語はずっと楽に聞き取れるようになりますし、同時に英語らしい強弱の入った調子で英語を話せるようになります。

「耳からはじめる英会話」によると「語核」とは「ある状況でもっとも大切な言葉」を意味します。

聞き取りにおいてはこの「語核」を察知すれば、相手の言いたいことがわかり、話す時にはこの「語核」と簡潔に使えば、自分の言いたいことを適切に伝えることができるわけです。

私はこの「語核」というのはあると思いますし、これを会話の中で自由に使えることができるようになることが、うまくコミュニケーションをするコツだということはその通りだと思います。

ではこの「語核」というのはいったいどんなものなのでしょうか?

日本語と英語には「語核」の使い方に違いがあるのでしょうか?

もう少し分析的に考えてみたいと思います。

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