121)21. 脚本の書き方: 2007年7月アーカイブ

日本語の演劇では、客席から見て右側を上手、左側を下手と言いますが、英語の場合にも舞台の位置を示す名称があります。

英語の脚本を書く場合には、舞台上に大道具(英語ではSETといいます)がどこにあるのかということや、役者が舞台のどこに位置にいるのかを示す必要がありますからこの名称を覚える必要があります。

下の図を見てください。

UP RIGHT
UP
UP LEFT
RIGHT
CENTER
LEFT
DOWN RIGHT
DOWN
DOWN LEFT

▲客席▲

まず客席の側から見て客席に近い方を英語ではDOWNといい、奥の方をUPといいます。これは昔の舞台は客席から奥に行くにしたがってだんだん高くなっていくように作られていたからこう呼ばれるようになったものです。

次に客席から見て左側をRIGHT、右側をLEFTといいます。このRIGHT、LEFTとは役者が客席の方を向いて立った時の右、左ですから注意する必要があります。

あとはこの2つを組み合わせればいいわけです。たとえば日本語で言う上手奥はUP LEFTとなるわけです。英語の脚本ではよく省略されて、UL、DRのように書かれることが多いですが、これはUP LEFT、DOWN RIGHTのことです。

幹、枝、根と書き終わったら、最後に葉っぱの部分を書きます。葉っぱはセリフです。そしてセリフを書くときに大切なことは葉っぱは枝についているということです。

枝の部分は状況でしたね。状況がセリフを決定するのです。特に大切なのが「それぞれの役者が何をしようとしているのか」という「行為の目的」の部分です。これがセリフを決定するといっても過言ではありません。 枝の部分である「行為の目的」がはっきりしているのであればその枝にそってせりふをつけていいだけですから簡単です。逆に枝の部分がはっきりしていないと、セリフが浮いて何が起こっているのかがよくわからなくなります。

 ひとつひとつのセリフをバラバラに書いていくのではなく、この役は何をしようとしているのかを決めて、その目的を達成するためのセリフを続けて書いていくのです。どんな話し方になるかは、その役の感情の状態、(おちついているのか、興奮しているのか、悲しいのか)、話す相手は誰なのか(家族なのか、親しい友達なのか、恐れている上司なのか)ということなども影響を与えます。

相手が返してきた言葉にどう反応するかは役のキャラクター(怒りっぽい性格なのか、我慢強い性格なのか、泣き虫なのか)といったことに強く影響されます。 感覚としては頭の中で役の明確なイメージがあって、その役がかってにしゃべりだすのをただ紙に書いていくだけという感じです。

ですから書いていくときは一度にワーと書きます。けして一つのセリフを書いてから次のセリフを何にしようかと考えながら書いていくようなものではありません。

脚本の中に見える形で書かれている部分と同じくらい大切なのが脚本の表面に出てこないそれぞれの役の背景です。この部分は木の根にあたります。見えないだけになおざりにされがちですが、とても大切な部分です。根っこがきちんとしていないと木全体が養分を吸い上げることができず、ドラマ全体が貧弱なものになってしまいます。またここがしっかりしていないと木全体を支えることができずドラマ全体がぐらついてしまいます。

この部分は実際には脚本を書き上げてから、役者自身が考えることも多いのですが、脚本を書く時点でもある程度、役について掘り下げておくことは必要だと思います。ここでは役作りのために用意された質問表を紹介します。 それぞれの役は以下の質問に一人称で答えていきます。(野村陽子著 PINCH & OUCH より)

◆ General Questions

1. What's your name?
2. How old are you?
3. What do you look like? (height, weight, other physical characteristics)
4. Are you married or single?
5. Are you rich or poor?
6.. What is your occupation?
7. Where do you live now? Describe the place you live.
8. In what period of history are you living?
9. What do you like doing? What are your pastimes?
10. What is your favorite food? kind of music? sports?
11. What is one of your habits? 12. What kind of clothes do you wear?

◆ Family Background

1. Describe your family.
2. How do you feel towards each member of your family?
3. How do you get along with each member of your family?

◆ Childhood

1. What kind of home environment did you grow up in?
2. Describe an interesting childhood experience, a happy experience, a sad experience.
3. what was one person or event in your childhood that had a great influence on you?
4. Describe your education.

◆ Using images to describe your character

1. if you were an animal, what animal would you be? a season of the year? a color? a shape?

◆ Characteristics

1. When are you most happy?
2. What are you most proud of?
3. What do you love?
4. What do you hate?
5. What do you fear?
6. What kind of person do you like? dislike?
7. What is your life ambition?
8. What do you value very strongly?
9. What has been the high point of your life up to now? the low point?
10. What kind of person are you?
(Use any of the adjectives listed below, or any other you can think of)
kind  rough  intellectual  simple-minded  lazy  generous  mean  nervous  domineering  creative  critical  egotistic  energetic  trusting  responsible  realistic

さて、幹の部分が書き終わったところで枝の部分に移ります。枝の部分にあたるのは各シーンの状況(situation)です。

各シーンには必ず状況があります。状況は場所、時、登場人物、そして登場人物が何をしようとしているのかという4つの部分から構成されます。この4つの要素が見ている人にわかるような工夫をしなければなりません。これらがわからないと観衆はストーリー自体がわからなくなります。

たとえば場所ですが舞台上でそのシーンがどこの場所なのかを示す、何らかののヒントを見ている人に与えなくてはなりません。背景を使う場合もあるでしょう、木を置くなど大道具を利用することもできます。波のうちよせる音を流して砂浜ということをあらわすこともできます。ボールでもころがってくればそこは公園だということがわかります。

時に関して難しいのはシーンとシーンの間にどのくらい時間が経過したのかを示すことです。5分後なのか、次の朝なのか、一週間後なのかどうやって示しますか?ナレーションを使う方法もありますがあまりほめられた方法とは言えません。ナレーションで説明しなくてもセリフや舞台の様子から自然に時の経過が理解できるような工夫をしなくてはなりません。

登場人物については各役者の名前、登場人物同士の関係を自然にわからせなければなりません。ある役者が他の役者にMomと呼べば、二人は親子ということがわかります。もちろん衣装や動作、セリフなども登場人物がどんな人なのかを理解させることに役立ちます。とにかくその役が初めて舞台に登場したときにその人がどのような人物なのかある程度わからせないといけません。

小説の場合はこれらの状況を言葉で説明すれば事足りますが、戯曲の場合はこれらの要素を見せてやらなければならないから難しいのです。自分の脚本を読んでシーンごとに状況がはっきり見てわかるかどうかをよく考えてみてください。

登場人物が何をしようとしているかという目的の部分についてはセリフのところでいっしょに説明します。

さて実際に脚本を書く場合にどのような順序で書いていくのが良いのでしょうか?最初からセリフやト書きを書いていく人もいますが、あまり得策とは言えません。

私は脚本をよく木にたとえますが、まず幹の部分から書くのがいいと思います。幹の部分にあたるのはシノプシス(全体のあらすじ)です。

日本語では「箱書き」などといいますが、ストーリーの中でどんなことがおきるのか全体の流れをフローチャートのように書いていきます。

最初の部分はストーリーの背景を見ている人にわかってもらう部分です。日本で言う「起承転結」の「起」の部分です。この部分がいいかげんだと話が何が何だかわからなくなります。

それからいろいろな事件がおきます。ここが「承」の部分です。英語ではconflictといいますが、いろいろな葛藤が起きて、だんだんテンションが高まっていく部分です。テンションはストーリーの後ろに行くにしたがって高まっていくように書かなければなりません。「承」の部分はストーリー全体の80%をしめます。

そしてテンションが最高に高まるのが「転」の部分すなわちclimaxです。このクライマックスのテンションを最高に高めるように書くのがコツです。

最後に「結」の部分が来て、ストーリーは終結します。クライマックスからエンディングまではなるべく早く終わらなくてはなりません。グズグズしているとせっかく高まったテンションが台無しになってしまいます。

テンションを高めるコツとしては、登場人物(特にメインの役)にいろいろな問題を与えます。そして苦労してこの問題を解決していく過程を見せることによってテンションを高めるのです。

問題は登場人物の外にある場合も中にある場合もありますが、いずれにしてもその問題を解決していくことによって登場人物が成長しなければなりません。「劇の最初と最後で登場人物がどう成長したか」これがわかるようにシノプシスを書いていくのです。

まず脚本を書くためにはどこからかストーリーのアイディアを得なければなりません。実はこれが最も難しいことで、脚本家はみなこれに頭を悩まします。

まず自分の経験や、他人の経験から話を書いていくという方法があります。自分の人生にはドラマにするほどエクサイティングなことなど無いという人がほとんどだと思います。でも自分では面白くないと思っていることでも、結構人が聞くとおもしろいことはあるものです。普段友達などに話している自分のこと、家族のこと、他人の噂話などをちょっとふくらませるとドラマの題材になるものは結構見つかるものです。

新聞で読んだ事件や、本で読んだ人物を素材にストーリーを書いていくこともできます。この場合ある程度その人物についてリサーチするとリアリティのあるドラマになると思います。リサーチしてもわからない部分は想像で補います。

知っている話の状況を変えてストーリーを書くという方法もあります。たとえばウエストサイドストーリーというミュージカルがありますが、これはシェークスピアのロミオとジュリエットを状況をニューヨークを舞台に書いたものです。時代や登場人物を変えれば同じプロットでも様々なバリエーションのストーリーが書けます。

また脚本を書く練習のためには小説などを脚本に書きかえるということも練習になります。アイディアは自作のものではなくなりますが、小説と脚本では構造が違うので脚本にアレンジするだけでもいろいろなことが勉強できます。どうしても脚本にするアイディアが思いつかなければ知っている話をドラマにすることを考えてください。

脚本を書くときに難しいのは自分の話を客観的に見ることです。自分のストーリーというのは誰しもが思い入れがあるもので、どうしても他人の視点で冷静に見ることができないのです。

私は「脚本の書き方」というクラスを教えたことがありますが、生徒が書いた脚本は一人よがりで自己満足なものになりがちです。そうした点を指摘するのですが、なかなか他人の評価を受け入れられません。

私自身がそうでしたからその気持ちはよくわかります。しかし、自己満足の域を出ないといつまでたっても脚本家としては成長できません。私も一生懸命書いていったものをケチョンケチョンにけなされたり、提出した脚本に真っ赤に赤を入れられてくやしい思いをしたことが何度もあります。そうしたことを乗り越えてだんだんまともな脚本が書けるようになるのです。

昔は脚本を書くのはただ才能の問題だと思われてきました。しかし近年は良い脚本を書く為の方法が確立され、ポイントさえ押さえれば誰でもおもしろい脚本が書けるようになってきています。 まずはそうした脚本の書き方の基本をきちんと学ぶべきです。

ここで紹介するのはそうした誰でもが応用できる方法です。 ただ方法だけ学んでも意味はありません。ここに書かれていることはあくまでも一般論にすぎません。大切なことはこれを使って実際に脚本を書く練習をすることです。

本当の実力というのは自分のストーリーを書いていく中で生じた問題を解決していくことでついていくのです。

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