08)5-8. ドラマで新しい自己を発見する
Q. 大変興味ぶかく読ませていただきました。ドラマメソッドは、たしかに説得力がありますね。たとえば、英語と日本語の違いはありますが、幼いころの学芸会を思い起こしまして、よく理解できました。ああいうことを通して、どんどん日本語の表現力を身につけてきたのですね、意識しなかったですが・・・。
ところで、素人考えなんですが、ロール・プレイや状況設定をして、表現力を学ぶのはいいとしても、それはある意味で「皮相的」なものを身につけることになるのではないでしょうか。
僕がやったやり方は、現在・過去・未来の自分を確実に表現できるようにするというものです。あらゆる自分自身のこと、家族、教育環境、社会観、将来の目標などを英語で表現できるようになり、自分をまず「確立」するというやり方です。
どうも日本人は客観的に自身を語ることが苦手で、英語圏の人はそれを自然にやれる人たちだと思います(たとえば、最近のMy name is Joeという映画の主人公のように。(笑))。ですから、ドラマメソッドと並行して、表現者自身の中味を固めることが肝要ではないか、とそんな風に思うのですが。
A. 御質問にある「現在・過去・未来の自分を確実に表現できるようにする。あらゆる自分自身のこと、家族、教育環境、社会観、将来の目標などを英語で表現できるようになる」ということこそドラマメソッド(R)で使う「役作り」の方法です。ドラマではこれらのことを自分が演ずる役について細かく考えていきます。
私達は「自己」とは自分の今までの育ってきた環境が決定し、変えられないものだと考えがちです。しかし、本当は私達は1つの役を演じているだけなのではないかと思うのです。 例えば、私は中流の日本の家庭に育ち、日本の学校教育を受け、アメリカの大学院で勉強し、現在英語の講師をしている二児の父親という背景を持ちます。しかしこれは実は1つの役であり、私の一面でしかないのではないかとい思うのです。 もしも私が全然違った環境で育ってきたら、そこには違う人生があり、私のまた違った一面が出ていたのではないか考えられるのです。
例えばドラマの中では私達は中世の貴族や、戦争の捕虜や、法廷で闘う弁護士を演ずることもできます。現実の世界の自分とは全く違った人生を生きることができるのです。違った役を演じることによって、世界を違った見方で見れるようになります。そして設定された状況の中で自分がいろいろな反応をすることから自分の新しい面に気づくことができるのです。
ドラマのおもしろさは、こうした「時間や場所を超えた、想像の世界の中に生きる」ことで、今まで表面に出てこなかった「新しい自己」を発見することができるところです。 もちろん、これができるためには自分の役についての相当深い理解が要求されます。ロールプレイや演技を皮相的なものにしないためにも、状況の細かな設定や役の背景を深く掘り下げていくことが必要なわけです。
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