139)39. 英語直接理解方法の最近のブログ記事

私達の学校で教えている学習法は松本亨先生の「英語で考える」という学習法です。「英語で考える」と聞くと「哲学とか科学とか難しいことを英語で考えること」のように何か非常に難しいことのように誤解される方が多いので、まず私の考える「英語で考える」の定義を説明します。

私の「英語で考える」の定義

1.聞いたり、読んだりした英語を(日本語に訳さずに)イメージや概念として直接理解する。

2.話す時や、書く時は(日本語で考えたことを英語に訳するのではなく)話したいこと書きたいことを直接英語で思いついてそのまま表現する。

すなわち「英語で直接理解し表現する」ということが「英語で考える」ということなのです。 これはそんなに難しいことではありません。

皆さんだってdogと聞けば、犬と訳さなくたって犬をイメージすることはできるでしょう。「おはようございます」を考えてから英語に訳さなくたって直接”Good morning”という英語を思いつくことはできると思います。「英語で考える」とはすべての英語に関してこれと同じことができるようになることを言うのです。

この章ではまず英語で直接意味を理解するためにはどうしたらよいかを考えてみたいと思います。

理解というと知的に言葉の意味を理解するということだけを考えがちですが、実は理解にはもう1つ感情的理解があります。そして私は人間が言葉を理解するときは、知的理解より感情的理解の方が先だと思うのです。

たとえば赤ん坊が小さなブロックを口に入れようとします、母親はそれを見て「健ちゃん、ダメッ!」と叫びます。赤ん坊はビクッとしてブロックを口に入れようとするのをやめます。この時赤ん坊は「ダメッ」という言葉を知的に理解しているのではなく、母親の強い言葉の調子に反応して、「これはいけないことだ」と理解しているわけです。

逆に「いい子ね」とニコニコしながらやさしく話しかければ、子供はほめられていると思ってうれしくなるでしょう。これも言葉の意味を理解しているのではなくて母親の言葉の調子に反応しているわけです。

つまり人間は言葉の意味を理解する前に言葉の中の感情的に理解し、知的理解というのは感情的理解の後に来るのが普通だということです。

この感情的理解は日本の英語教育ではほとんど考慮されていないといっていいでしょう。しかし感情的理解は言語習得にとってとても大切な要素だと思います。

私が英語の音声教材を選ぶ時その教材の音声が生きているか(自然に本当の感情が入っているか)ということが1つの基準になるのはこうした理由からです。

スペリングを覚えたり、文を文法で分解して理解する前に生きた英語の音声を聞いてその音の中に意味を感じ取らなくてはならない(感情的に理解しなければならない)と思うのです。そしてその感情とともに英語を素直に覚えていけばストレスやイントネーションなども自然に覚えられ、英語を自然な調子で使えるようにもなります。

コミュニケーションでは情報を伝えるという作用とともに感情を使えるという作用もあります。日本の英語教育はあまりに言語の情報を使えるという作用のみに着目して言語を知的に理解しようとばかりしているから楽しくないのです。

コミュニケーションには感情を伝えあうという楽しさがあることを皆さんに是非知っていただきたいです。

非言語コミュニケーション要素(Non-verbal communication)とは言語以外の方法でコミュニケーションをとる手段をいいます。例えば絵や図、写真、グラフなどの視覚補助、対人コミュニケーションではジェスチャー、視線の合わせ方、顔の表情、相手との距離、身体的接触、衣服や髪型、アクセサリーやメイクアップなども非言語コミュニケーション要素に含まれます。

調査によると実際のコミュニケーションの70%はこうした非言語コミュニケーション要素によるものだそうです。したがって英語を理解する時も非言語コミュニケーション要素は理解を助ける重要な道具になります。文字を見ただけでは理解できないこともイラストや写真があるだけで楽にできることも多いです。

テープ教材を使うよりも、テレビやビデオを使ったほうがビジュアルなものがある分だけ理解を助けます。また会話の中で相手の話している内容を理解している時も顔の表情や視線の合わせ方などから私達はいろいろな情報を得てそれが理解を助けているのです。

初級者のうちは英語のイメージがすぐにわきませんから、特に非言語コミュニケーションから選られる情報が大切です。できる限り言語以外の助けが得られる教材を選ぶようにしましょう。

では次に英語を知的に理解できるとはどういうことかを考えてみたいと思います。

英語を直接理解するということは英語を日本語に訳さずに聞いた瞬間に理解できるということですが、英語を聞いて理解するにはまず英語を聞き取れなければなりません。英語を聞き取れるためにはどんなことが必要なのでしょうか?

まず英語が聞き取れるためには英語を正しい音声で覚えていなければなりません。「英語が聴き取れるということは、頭の中に記憶されている英語の音声と、耳で聞く英語の音声が一致する」ということだからです。 逆に頭に記憶されている音声が英語の正しい音声と違うと、正しい英語の音声を聞いてもわかりません。

正しい英語の音声を覚えていないと聞き取れない例として私の失敗談をひとつお話しましょう。 知人のユダヤ人がイスラエル大使館に行きたいというので、大使館に電話で問い合わせて道順を聞いていた時のことです、相手がしてくれた英語の説明の中に「タヌ」という言葉がでてきたのです。私はその意味がわからなくてWhat does a 「タヌ」mean?と聞きました。相手は「そんなことも知らねーのか」といった口調で説明してくれたのですが、tunnelのことだったんです。私は当時tunnelは「トンネル」だと思っていましたから「タヌ」と聞いても全然わからなかったんです。

「牛乳」のことを「ミルク」と覚えていると、正しい英語の音声で「ミヨコ」と聞くと何のことかわかりません。Do you have a 「ネコ」?と聞かれても何のことかわからない人はnickel(5セント硬貨のこと)を「ニッケル」と覚えている人です。

このように英語はまちがった音声で覚えると、正しい音声の英語を聞いても理解ません。話す時にも正しい音声で話さないと通じません。だから正しい音声で英語を覚えることは英語学習の基本となる最も大切なことなのです。

日本の英語教育はこの正しい音声で英語を覚えるということをないがしろにしています。英語の音声ははカタカナで代用することが多く音声記号がまともに読める人はごく少数です。これでは英語が聞き取れるわけがありません。

読めばわかるけど、聞いてわからないという場合は英語を間違った音声で覚えている場合がほとんどです。

英語を正しい音声で覚えていて英語が聞き取れてもその音声がイメージや概念と一致していないと理解できなかったり誤解をしてしまいます。

よくネイティブスピーカーの後に同じようにくりかえして言うことはできるのだけど、意味がわからないという方がいますが、それは英語とイメージや概念が結びついていないためにおこることです。

くりかえして言えてもその意味がわからなければオウムと同じです。「わかる」「理解する」ことなしに言葉は意味を持たないし、使えないし、すぐ忘れてしまいます。

これまでの英語学習はこの「わかる」「理解する」ということを日本語にたよってやってきました。英語を日本語に訳してそして理解するという方法だったのです。しかしこれからは英語で理解できるようにならなければいけません。

この「人間は言語をイメージや概念としてどう理解しているのか」という問題を主にあつかっているのは認知心理学という学問です。現代の応用言語学はこの認知心理学に大きな影響を受けています。その内容はかなり複雑で「単語の意味がわかる」「文の意味がわかる」「文章の意味がわかる」の3つのレベルで違った説明が必要です。それぞれについて説明します。

「単語の意味が直接英語でわかる」ということは割に単純です。イメージできるものはそのイメージと英語が結びついていれば理解できます。例えばsunriseという単語を聞いたり見たりしたら日の出の風景が思い浮かべられるようになっていればいいのです。

抽象的な概念はイメージがすぐ思い浮かびません。その場合でも日本語では理解していますから、最初はまず英語―日本語―概念と日本語を通して英語と概念を結びつけてもいいと思います。例えばdemocracy=民主主義という具合にです。

しかし、一旦democracy と概念を結びつけることができたら日本語の方は忘れるようにします。この日本語を忘れるというために役にたつのが英英辞典の英語の定義を覚えるという方法です。これについては「英英辞典で表現をつける方法」の章でくわしく説明してうます。

 認知心理学によるとこれらイメージや概念と結びついた語彙は脳の中ではバラバラに記憶されているのではなくスキーマというカテゴリーごとに整理されて蓄積されているといわれています。例えば家族というスキーマには、mother, father, brother, sister, son, daughter, などの一連の語彙が入っています。

また接尾辞や接尾語などで整理される場合や、同意語などで整理されている場合もあります。これらスキーマは英語を理解し、表現するためにはとても重要な役割を果たします。したがって単語はバラバラに覚えるのではなくスキーマという引きだしの中にきちんとしまっておくことが理解のためにも表現のためにも必要です。

単語の意味を理解することは動物でもできます。たとえば訓練した犬に「おすわり」とか「伏せ」とか言えば犬はその意味を理解できます。しかし文を理解することは人間のみに与えられた才能です。文を文法で組み合わせて複雑な意味を伝えることは人間にしかできないのです。

「文の意味が直接英語でわかる」ということは単純なものと複雑なものがあります。単純なのは「きまり文句」です。これは知っていればわかります。例えばWhat do you do? は「お職業は?」という意味だと知っていればこの表現を聞いた時すぐわかります。 

what が疑問詞でdoは現在形で使う助動詞でといった分析をして理解しているわけではないと思います。この表現は全体で「お職業は?」という意味だと覚えているからWhat do you do? と聞いた時に意味はすぐわかるのです。

きまり文句として覚えてしまっているものは高速処理が可能です。私達が日常使う言葉のほとんどは「覚えてしまっている」というのが本当のところだろうと思います。ですからよく使う文というのはそのまま覚えてしまうと良いのです。

複雑なのは「きまり文句」以外の文です。これは無制限にありますからすべての文を全部覚えていると考えるのは合理的ではないと思います。しかし聞いた文をその都度分析して理解しているわけでもないと思います。理解するのは一瞬でできるからです。

どうやら人間のは意味を理解しながらたくさんの英語を覚えていくと脳の中に英語のの回路ができて、初めて聞いた文も理解できるようになるらしいのです。たくさんの文を覚えて、その表現を使うという試行錯誤を何度もやっているうちに英文法や語法が脳にインップットされて無意識でも新しい文が理解できたり、新しい文を作って表現できるようになるのです。

どうしてそんなことができるか脳の構造はどのようになっているのかということは言語学の対象となる謎です。チョムスキーをはじめとする言語学者達はが生成文法と呼ばれるいろいろなモデルを使って「こんな仕組みになっているのではないか」といろいろ考えていますが本当のところはまだよくわかっていません。

しかし英語の文を分析せずに理解できるようになるためには英語を何度も脳に通し、英語の文をたくさん覚えていくことが有効なことは私の経験上からも確実です。

本を読んでいて、ひとつひとつの文の意味はわかっているのに文章全体の意味がよくわからないということはよくあります。多くの場合それはその文章の内容についての背景知識(スキーマ)が欠けているからです。

 「文章の意味が直接英語でわかる」ためには背景知識が大切です。人間は文を聞いたり読んだりすると新しい情報が自分が今まで持っていた背景知識のどの部分にあたるかを考えながら理解します。

この背景知識の重要性については認知心理学は次のような説明をしています。人間の記憶には短期記憶と長期記憶の2つのレベルのものがあると考えられています。そして人間が聞いたり、読んだりした情報は一旦短期記憶の中に入ります、次に長期記憶としてすでに記憶されている知識(背景知識)の中から短期記憶に入ってきた情報を理解するのに役立ちそうな知識(スキーマ)を持ってきて入ってきた情報を再構築しながら内容を理解するというのです。そして理解したことをもとにさらに次にどんな情報が入ってくるかを予測し、それによって次の情報処理をすすめようとします。

入って来た情報に関する背景知識がないと情報を再構築できないので、文章全体の言っていることが理解できずわからなくなります。逆に背景知識のあるものを聞いたり、読んだりすると多少わからないことがあっても背景知識で補いながら理解することができるので内容がよくわかるのです。

日本の英語のニュースは理解できるのに、アメリカのCNNは理解できなかったり、イギリス文学やアメリカ文学が難しいのは英語の問題より背景知識がないことが原因のことが多いです。

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